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motus BASEBALLの普及への想い~事業責任者インタビュー

motus導入事例・取材

2020/02/10

メジャー27球団をはじめ、NPBでも続々と導入が進んでいるmotus BASEBALL。なぜmotusの日本導入を決めたのか。またmotusのある野球の現場をどのように見据えるのか。事業責任者のインタビューを紹介させていただきます。

目次

株式会社オンサイドワールドについて

 当社は、スポーツ医療の分野で使用されている機能性の高い製品をアスリートやスポーツを楽しむ人にもっと身近に手に取ってもらいたいという想いから誕生した会社です。もともと親会社である株式会社シラックジャパンでは整形外科を中心とした医療施設に対して、治療用補装具や医療機器を販売してきました。

膝の前十字靭帯手術後のリハビリ用装具を主力商品としているため、整形外科、特にスポーツ選手が多く集まるスポーツ整形外科との関わりが深く、スポーツドクターや理学療法士の先生方をクライアントに抱えています。

 常に患者様の目線に立ち、寄り添い、ケガからの復帰を目指すリハビリテーションの過程において、笑顔で前向きに快適に一日でも早く復帰していただける製品やサービスの提供はできないものか、常に患者様の目線に立ち患者様ファーストの精神で質を追及してきました。

 あるとき小さなきっかけで取引先のスポーツドクターを通じてASO足首サポーターがテニスの錦織圭選手に渡りました。以来長年に渡り、錦織選手のパフォーマンスとともに右足首を支えてきたことは私たちの誇りです。


motus BASEBALL日本導入の経緯

 最初にmotusを知ったのは、こちらも取引先の医師から「アメリカに面白いツールがある」とご紹介いただいたのがきっかけでした。製品のことを深く学習していくにつれて、motusの機能性がひょっとしたら野球の肩肘のケガで困っている人たちを助けることができるのではないか、効率的なパフォーマンスアップに役立つのではないかと思うようになりました。私たちの活動フィールドである「スポーツメディスン×○○」というコンセプトに乗せて展開をしていける商品だったというのも理由の一つです。2018年3月にアメリカの整形外科学会の参加に併せてmotusBASEBALLが採用されているカリフォルニアの野球専門トレーニング施設を見学しました。見学したのは南カリフォルニア、サンタアナにあるELITE BASEBALLという施設で、企業の倉庫の一角にブルペンとトレーニングスペースを作り、各種分析機器が導入されていました。

ジュニアから高校生、メジャーを目指す社会人選手まで幅広くトレーニングに訪れています。このようなトップアスリート専門の施設では、RapsodoやmotusBASEBALLなどのテクノロジーを当たり前のように活用しながら、非常に専門的なフィードバックが行われており、その様子に大変な衝撃を受けました。導入する決意が一瞬で固まりました。


現場で評価いただいた”ライブモード”

 早速製品企画を開始し、日本国内で2019年8月に先行販売を開始しました。プロ野球球団や野球の外傷障害を診られている医療施設、各種研究大学機関などからすぐにポジティブな反応をいただき瞬く間に販売が進みました。特に評判だったのが、センサーを搭載したスリーブを装着して投球すると、すぐに投球に関するデータが表示されるライブモード機能です。ライブモードでは、投球ごとに以下の4つのデータを瞬時にリアルタイムで取得することができます。

1. アームストレス(肘UCLかかる最大トルク)

2. アームスロット(リリース時の前腕と地面の角度)

3. アームスピード(前腕の腕振りのスピード)

4. ショルダーローテーション(後期コッキング期の肘2nd外旋:MER)

 今まで感覚値でしかなかったポイントを数値としで表示できることにより、投球フォームの改善や、負荷の高い投球のモニタリング、肘のコンディション管理にすぐ活用できるということで、野球現場のみならず医療施設、リハビリテーション、野球検診の現場においても好評をいただいています。


ワークロード(負荷)の管理という考え方

 一方で、私たちがmotusの導入を決めた本来の理由でもある、肘の故障を防ぐという目的でmotusを活用してもらうためには、投球時には必ずmotusを着用することを前提に長期的に活用し、データを蓄積していく必要があります。蓄積したデータを元に、肘への負荷のかかり具合、疲労度をモニタリングでき、安全に投球できる球数などの具体的な情報がフィードバックされます。

 最近では、投球数制限についての議論が過熱するなど、国内でも投球過多による投手の肘の故障は大きな問題になっていますので、motusはこれらの問題を解決できるひつのきっかけやヒントになるのではないかと考えています。

 ただ、これまで現場の実践や経験に基づいて設定されてきた投球数や練習量についての判断を、いきなりmotusというデバイスがフィードバックする数値に任せるのは簡単ではありません。motusの背景にあるワークロードのモニタリングというスポーツコンディショニング界ではスタンダードになりつつある考え方を信頼いただくことが不可欠です。この新しいコンセプトを深め日本で広めていくために、motus開発者であるBen Hansen氏を尋ねることにしました。

中央:Ben氏



投球フォームへのアプローチは大事だが…

 今シーズンからメジャーリーグシカゴホワイトソックスの球団スタッフに就任したBen Hansen氏と、motusが生まれるきっかけを作ったCasey Mulholland氏にお会いするためにフロリダ州タンパにあるCasey氏が運営する野球トレーニング施設を訪問しました。彼らからmotusが開発された背景、ピッチング動作やトレーニング哲学について学ぶ中で分かったのは、"肘の故障は投球フォームの不良が一番の原因ではない!”ということでした。

 Casey氏は高校時代全米でベスト50に選ばれドラフト1巡目指名確実なピッチャーでしたが、高3時にトミージョン手術を実施し高卒後のプロ契約は断念。その後、大学を経てロサンゼルスドジャースから37巡目で指名され、一度はプロ契約するもケガに苦しみ数年で引退。自身のキャリアを阻んだケガの原因について、「負荷のかかりやすいピッチングフォームが問題だ」と指摘され、その時々で出会ったトレーナーに肘への負担が少なく、”良い”とされる投球フォームへの修正に何度も取り組んだそうです。それにもかかわらず、結局ケガを防ぐことはできず、早期に現役を引退せざるを得なくなりました。

左から2人目:Casey氏

 Casey氏がKINETIC PROを創設したのも、自分と同じようにケガで苦しむ選手を一人でも減らしたいという想いからだったそうです。バイオメカニクス、ストレングスへのアプローチもこだわりながらも、ワークロードをベースにしたトレーニングを設計しなくてはならないこと。いくら肘への負担が少ない理想的なフォームでも、疲労が溜まった状態で強度の高い投球をしてしまうことにケガの原因があることをエビデンスや実例を交えて教えていただきました。

 日本球界でも肘の故障の原因は、投球フォームにあるとされるのが一般的です。もちろんフォームへのアプローチは大切です。ただ、どんな投げ方でも肘への負荷はかかるもので、負荷をいかに数値で”見える化”し、適切な量と質で安全にプレーするか。

ワークロードの見える化を可能にしたのがmotusBASEBALLだったのです。


肘の故障はワークロード過多によるもの

 スポーツ臨床の研究からも、肘の故障はワークロードの急激な上昇が原因になることが多いと発表されています。急激な上昇、つまりオーバートレーニングを防ぐために、直近(Acute)と長期(Chronic)のワークロードの比較値、A:C Ratioの数値をモニタリングすることが重要になります。

 肘の靱帯は、なにも支えがない状態で負荷がかかるとすぐに損傷・断裂します。投球時の肘には外反トルクという非常に高い負荷がかかります。本来ならば一度の投球で、腱は投球による負荷に耐えられないのです。それでも投球が可能なのは、腱を支える前腕部の筋肉、回内屈筋が緩衝材としてはらたき、衝撃を受け留めているからです。投球による負荷が溜まり、前腕部の疲労や炎症が抜けきらない状態で登板してしまうことで、支えとなる前腕部の筋肉がうまくはたらかず、結果として腱が故障します。これが肘の故障のメカニズムなのです。だからこそ、ワークロードの管理をする必要があり、データを元に、どれぐらいまで肘を安全に使えるのかを把握することが、故障を防ぐために不可欠なのです。


motusを通じてアスリートファーストを実現したい

 どのスポーツにも言えることですが、スポーツ業界では勝利至上主義が当たり前です。監督や選手も勝つことを目指すのが当然ですから、たとえば肘に違和感を抱えていたり、疲労感があったとしても、監督からの登板指示が出れば、選手から断ることできない状況も多いかと思います。特に、自身のコンディションの悪さを発することでメンバーから外される可能性があれば、なおのことケガや不調を隠そうとすることが増えてしまっているように思います。

 その結果が有望な投手の相次ぐ故障です。活躍する選手ほど、努力する選手ほど、残念ながら故障のリスクが高まってしまっているのです。私も長年サッカーに打ち込んできたので、勝利してこそのスポーツということに異論はありません。ただ、目先の勝利のために、選手とその未来が犠牲になることを無くしたい。だからこそ私たちはアスリートファーストを実現するためにも、テクノロジーを活用してもっとスポーツ医学的観点を現場に持っていただきたい。motusによってワークロードが適切に管理され、肘の故障でキャリアを諦めざるを得なかった選手が一人でも救われるように。この目的に共感していただける人を増やす活動がmotusの普及につながると信じています。


ワークロード管理が当たり前になる日を目指して

 ワークロードという概念や、motusもスポーツ医学の領域ではたしかなエビデンスに基づいていますが、実際に日本の野球界で広く導入されるには、まず実績を増やすことが不可欠です。メジャー27球団に追随して、すでにNPBの4球団でも導入されています。今春のプレシーズンキャンプでも新たに3チームで運用デモンストレーションが実施されています。  

 今後は、大学や地方のリトルリーグなど、リーグ戦で、着用自体がルール化されるような事例を作ることをまず目指しています。そして最終的には、投球量の議論が最も白熱している甲子園や高校野球の舞台で、全投手がmotusを着用し、適切なワークロードの範囲内で、試合を戦っていく。そんな環境で生まれたドラマでこそみんなが納得し感動する。野球の現場にテクノロジーとともにスポーツ医学的なアプローチを取り入れ、より良い環境になることを願っています。”ピッチャーの未来を作るプロジェクト”と称して色々な人を巻き込みながら邁進していきたいと思います。

 

八木 一成

株式会社オンサイードワールド  Marketing Division General Manager

やぎ かずなり/小学1年生から大学までサッカーに打ち込む。サッカーやスポーツに関わる仕事をしたいと就職活動を実施し、医療機関向けの補装具や医療機器を取り扱う株式会社シラックジャパンに入社。サッカーやスポーツに医療という側面から関わり、ケガからの復帰を目指すアスリートやケガをしないための予防医療分野への貢献に情熱を注いでいる。医療施設で使用されている機能性の高い製品を一般のスポ―ツ従事者に提供する株式会社オンサイドワールドの立ち上げに参与。現在にいたる。